スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

人材の未来に投資する“勝ち戦の論理”

2008年08月02日 11:56

人材の未来に投資する“勝ち戦の論理”
樹研工業 社長 松浦元男 氏 Innovator File No.10
株式会社 樹研工業
代表取締役社長 松浦元男 氏
Matsuuraa Motoo

<インタビュー>
日本LCA 知識開発室  高田晋治、高橋現

 2002年、世界初となる100万分の1gの超小型歯車を開発した、射出成形メーカーの「樹研工業」。微細加工の分野で世界中から一気に注目を集めた。しかし、歯車の使途を問われると、「分からん」、松浦元男社長は応える。先の見えない基礎研究に何億円もの資金を投じられる資本力こそが、同社の強みであり、社長の節制の賜物だ。

 投資の裏づけとなるのは、社員との信頼関係。最高級のマシンを付与された社員は、手探りで未知の世界を切り開き、自らの力で市場価値を高める。マーケットでの発言力をつけ、付加価値の高い仕事をし、内部留保に貢献する。この好循環を、松浦社長は“勝ち戦の論理”と言う。多くの部品メーカーが業績不振に喘ぐ中、世界中のメーカーから取引要請が引きも切らない。


●不確実性の高い“人”という存在を信用する

―― 「百万分の一の歯車!」(中経出版)、「先着順採用、会議自由参加で世界一の小企業をつくった」(講談社)など、昨年は、立て続けにご著書を出版され、話題を呼びましたが、これは、いまや、優秀な部品メーカーの技術力こそが、最終製品の差別化要因となっていることの証左だと思います。だから、この先行き不透明な時代に、読者は松浦社長の意見を求めようとする。ただ、ご著書の内容を読ませていただくと、松浦社長の主張は実にシンプルで、結局、成功の秘訣は「人づくり」に尽きるということですね。世界初となる100万分の1グラムの歯車の開発も、いまは、その話題性とは裏腹に、現時点では用途がなく海のものとも山のものともつかない状態だということですが、“世界初”を実現したことによって、開発者自身の市場価値が高まり、マーケットでの発言力が増し、ひいては御社の業績向上にも結びついていると。

松浦   そうですね。言ってしまえば、これまで、ほとんどの企業が、基礎研究を疎かにしてきた、ということです。“応用”と言えば聞こえはいいですが、二匹目のドジョウばかりをねらってきて、独自の開発体制を構築できなくなり、「ドジョウがいなくなった」とあたふたしている。それこそ、海のものとも山のものともつかない研究開発にまい進させるということは、研究者をとことん信頼しなければならないということなんですよ。しかし、ほとんどの経営者は、それとは逆に、“生産性”という旗印の下、不確実性の高い“人”という存在を、信用せず、統制管理しようっていう考え方をしてきた。でも、それでは、社長の発想を打ち破るようなイノベーションが起こらないわけですよ。社員の創造性を生かそうとするなら、不確実性こそ可能性だと考え、人材の未来に投資するスタンスに転換しなければならない。大事なのは、会社にそうしたスタンスがあるのかないのか、ということです。

―― それはどういうところに表れるんですか。

松浦  会社のサイフの中身を見れば一発でわかります。要するに内部留保ですよね。日ごろから地道に内部留保をしているかどうかが、資本準備金の額に表れてくる。ここにこそ、経営者が未来への投資にどれだけ信念を持っているか、が表れてくる。だって内部留保に努めれば、倹約や納税で、経営者の懐はちっとも豊かにならないんだから、会社が自分の所有物で、社員はコストだと考えているような人には、とてもできることではありません。優良な企業は、漏れなく、資本準備金を潤沢にし、新たな分野に挑む優秀な社員に、いい環境を与えている。要するに、人事は財務の問題と切り離せないわけです。逆にそれを切り離して考えるからおかしなことになる。

 スキルやノウハウは、言うまでもなく人に蓄積されます。しかし、それは資産価値として帳簿上に現れないし、即利益に結びつくものでもない。だから、現場をよく知らない経営者には、その価値が見えてこないんですよ。本来なら、人事部門などがそうした無形資産の価値を示してあげなければならないのに、そんなノウハウはない。経営者は、見えないから不安になって、短視眼的な収益の拡大に社員を駆り立てることになる。P/L(損益計算書)に基づいて経営計画を立て、売上目標やコスト削減目標の実現のために、人材を管理するという意識になるわけです。

 だけど、そんな計画に社員を当てはめていけば、社員はこれまでの事業の延長線上でしか物を考えられなくなるから、新規の事業が生まれなくなり、発展性がなくなるし、普段から創造性を発揮できないから社員のモチベーションは下がる。また、そもそも、売上目標や利益目標といった計画自体が絵に描いた餅にすぎないから、高い確率で計画の狂いが生じる。計画の狂いをまたP/Lで調整しようとすると、コストダウンのために人的なリストラをせざるを得なくなり、社員のモラールが低下する。と、まあ、そんな悪循環に陥りがちになるわけです。

―― 最近では、リストラによって業績がV字回復した企業を、株主やメディアがこぞって評価する傾向が定着している。

松浦  僕は、そんな業績回復は粉飾決算と変わらないと思っています。だって、何の経営努力をすることもなく、社員に責任を押し付けて済ませているだけなんですから。当社は、そんな企業とは取引しません。そんな企業の発展に力を貸したくもないし、多くの場合、縮小均衡で見通しも暗いだろうから、巻き添えも食らいたくないですしね。

●節制して貯めた資金で、最高級のマシンを与える

―― ご著書でも、経営者の役割は、社員がチャンスとモチベーションを取り込めるような環境を提供することだとお書きになっておられましたが、これは具体的にどういうことですか。
樹研工業 社長 松浦元男 氏

松浦  それは、当社で言えば、技術者に最先端で最高級のマシンを与えてやることです。例えば、昨年には、ナノという単位で金属(金型)を加工するための工場を建設しましたが、周辺の道路から伝わる振動の影響をゼロにする免震構造や、工場内の温度を±0.001℃に抑えるクリーンルームを備え、そこに一ナノの単位で制御できる五軸制御のマシニングセンターを入れることで、総額3億4000~5000万円の投資をしました。

 これも現状では、用途が未定で、言わば基礎研究用の設備投資なんですが、とにかく最高のグレードのものを入れ、オプションも全てつけました。社員は購入にあたって、「ちょっとこのオプションもったいないな」とか言ってたんですが、冗談じゃない。最高の機械を使おうと思ってたら、そんなもの遠慮してたらダメだと。ちゃんと使おうと思ったら、ちゃんとオプションを入れろって。刃物でも、超硬にすれば安いもんですよ。でも最高に削ろうと思ったら、やっぱりダイヤモンド。最低30万円。ちょっと良い物になると、60万~90万円になる。社員は「どうしましょうか」って。そんなもんダイヤモンドに決まってる、という一言でダイヤモンドにする。で、工場は工場でインチキしないで完璧なものをつくる。

 そうすると、豊田工機の技術部長さんなんかが来られて、「うらやましい」っていうわけですよ。その瞬間、うちの担当者が、上場企業の技術者の羨望の的になる。そうすると、担当者はバーンと爆発しちゃうわけね。やる気をおこすわけですよ。まあ別に他人からの評価を受けるかどうかは大した問題ではありませんが、最高の道具をもって、最高の機械の前に立ったら、やっぱり気持ちが違いますよ。これは僕がピアノを弾くからわかるんです。

―― 大学時代、ダンスホールのバンドマンとして活躍されたとか。

松浦  ええ。トロンボーンやピアノをやって生活費を稼いでいました。そのころ、先輩から言われたんです。「弘法は筆を択ばずというけれど、俺たちは選ばなきゃだめだ」って。世界に数台しかない特別なピアノを与えられれば、神聖な気持ちになって、それに見合った作品を作ろうという気持ちになりますよ。何よりピアノを弾くこと自体が楽しくなって、弾いて弾いて、何とかしてピアノのレベルに追いつこうと考える。でも、そんな燃えたぎる気持ちを秘めている人間に、「お前、それは贅沢だよ。お前ならこの程度でいいんじゃないの?」って言って、三流品を与えたら、気持ちが萎えますよね。

―― 会社がその人物をどう評価してるかが、そういう場面に表れる。そんな中で、社長が、日ごろから節制して貯めたお金を、自分たちが利用するマシンに惜しみなく投入してくれたら、やはり意気に感じますよね。

松浦 そりゃあもう、彼らも燃えたぎる血潮でぶつかっていくわね。そんな士気の高さで、他社が持っていない高級な機械に向き合えば、世界初の技術も生まれるんですよ。だけど、社長が高いゴルフ会員権買って、それで損したらしいっていう噂が出たり、会社にゴルフバックが置いてあって、その中に入ってる道具は何十万とか何百万とか、そのくせハンデは30だとか、そんな話ばっかりじゃ、そりゃ若い子もついてこないと思うよ。

●チャンスとモチベーションの論理

―― 松浦社長が「どんな人間でもモチベートできる」とおっしゃる意味は、そういうところにある。

松浦  そうそう。やっぱり皆やる気あるもんね。全く生きる意欲がないなんて、そんなやつ初めから入ってこないよ。会社に来たいっていうからには、やる気があるんだよ。まず受け入れ側の社長に、自分の会社を選んでくれたことに感謝する気持ちがなかったら、最初の第一歩から分かり合えないね。金髪でピアスをしてようが、どんな格好をしてようが、その家のお父さんお母さんからしたら、大事な息子や娘だもんね。それを大事に受け取ってあげるっていうのは、ごく当たり前のことでしょう。大事に受け取って、大事にすれば、それは人それぞれタイミングは違うにせよ、みんな素直にサーッと伸びていくよ。

―― だから先着順採用でいいと。

松浦  ええ。大体、面接をやったって、人間の本質を10分程度で見抜けるわけがないんだよ。実際、うちで若手のホープと言われている人材が入社したばかりのころ、「今回ばかりは失敗したか」と僕は採用を後悔しました。いま、社内では「天才」とまで言われ、誰からも頼りにされています。でも、そのときは全くわからなかった。だから、当社を志望する気持ちがあれば、もうそれで十分だと思っています。

―― 松浦社長や、岡野工業の岡野雅行社長など、技術力に定評のある会社のトップが、部品会社の蔑称でもある“下請け”という言葉に対抗して、“上請け”という言葉を使って来られましたが、要するに、このチャンスとモチベーションの論理で、大企業に買い叩かれず利幅の稼げる技術が開発できるということですよね。そして、その利益をまた地道に内部留保し、社員に投資する。そういう良好なサイクルが築けていると。
樹研工業 社長 松浦元男 氏

松浦  そう。その好循環が構築できるかどうか、が成否を分けるポイントなんですよ。目先の数字にとらわれている経営者ほど、そこに気づかない。たとえば、かつてITバブルに乗って一世を風靡したドットコム会社の社長や、国際的な事業展開をしたスーパーの社長などが、倒産した後、コンサルタントとして活躍している情報が、様々なメディアで報道されていますが、彼らが話している内容を見ても、自分たちの失敗した原因をあまり理解していないんですよね。自らに責を求めているのはいいんだけど、結局、小手先のマーケティング戦略の話とかに終始しているんですよ。敗因の分析自体が間違っているわけです。

 確かに失敗の原因の一端はそこにあったかもしれないけど、それを改善したところで、企業が存続できるわけではない。自分が立ち上げた事業が下火になったとき、なぜ、社員から次なるアイデアが出てこなかったか、そこを考えるべきなんです。そもそも、会社の利益を上げて、倹約をして、税金を払う。そして、資本金を増やして社員に投資する。そんなサイクルをつくることを、彼らが成功と考えるかどうかの問題もありますがね。負け戦の将は、勝ち戦の論理を全く理解しようとしないのが世の常なんです。

―― 経営者とは、すべてを背負いながら、金銭的に得るものは少ない、割に合わない役割だと。

松浦   それでいいんですよ。会社は、社員の安心の拠り所でなければならない。そうあり続ける仕組みをつくれれば成功なんですよ。本当に会社の存続を望むなら、企業の将来のためにできるだけ多額の投資をしたいと思うでしょう。そう思えば、役員賞与はやめて、税引き利益をできるだけ社外に出さないようにする。経営者は、十分な報酬をもらっても、貯金して増資を行うか、実質資本金勘定として働くように自社に預けるでしょう。そのまま自分の懐に入れてしまったら、その分、イノベーションの可能性が低くなるわけですからね。21世紀はマイクロ技術、ナノ技術が重要といっても、財務という裏づけがなくては何もできません。他の業界でもそれは同じです。

 それなら、日本は税金も高いし、海外に移転した方がいいのではないか、という声もあるでしょう。しかし、僕は自分を一人前に育ててくれた豊橋という町に恩返ししなければならない。町の一つの機能として、できるだけ多くの地元人材を受け入れて育成し、活用する。そしてキッチリと利益を上げ、税金を納める。この前提だけは崩したくないんです。そもそも、企業経営なんて、そのための手段にすぎないわけですから、割に合うも合わないもありません。税金というハンディがあるなら、それを乗り越えるために何をすればいいか。それを全社員で考え抜く。そこにイノベーションが生まれる。その感動がなければ、いくらお金があっても経営者なんてやってられませんよ。それこそ、割に合わないじゃないですか(笑)。


聞き手から

 金16、銀9、銅12。アテネ五輪で、日本選手団は、史上最多となる37個のメダルを獲得した。そんなオリンピック選手の活躍を引き合いに出しながら、取材中、「うちの若いのも、僕らが若いころと比べると、はるかに飲み込みが早いんだわ」と松浦社長が目を細めた。そして、スポーツ選手も部品メーカーの職人も同様、勘の良さは世代に起因すると言った。この場合の若い世代とは、20代の人間のことであるが、松浦社長が世代論として語ろうとしたのは、若い世代の方が、成熟社会の洗練された価値観を持っているということである。

 彼らは、団塊の世代のように、周囲と協調し、物質的な豊かさを追求することに重きを置くのではなく、我が道を行き、自分の成長を実感する充足感に価値を置く。だから、一旦、のめり込んだら、日々の積み重ねに飽きることなく、鍛錬を楽しみ、スピーディーに技術を身に付けてしまう。それがいまの20代の優秀さに結びついているというわけである。

 そうしたジェネレーションギャップを考慮せず、協調性を重視する過去の価値観でふるいにかけると、いい人材を取りこぼす可能性が高い。だから、変なフィルターを通さずに、先着順で採用すればいいんだ、というのが、松浦社長の持論だ。しかし、多くの経営者は、いまだ、「会社のすべてを管理しなければならない」という強迫観念にかられ、自分が容易に理解できる人間ばかりを社内に集めがちである。だが、そうすると、経営者の器以上に企業が伸びないのは明白だ。

 「お前は俺と違うから価値があるんだ」と、辞めようとする部下を引き止めたソニーの故・盛田昭夫氏の言葉は名言だが、経営者なら誰しも、他者との差別化を図ってきた経験があるはずだ。自らの存在価値を創造してきた歴史があり、そのことの意味もよく理解しているはずである。そうした草創期を思い出し、過去の自分に似た異質なイノベーターに関心を示すことが、創造性の高い組織に変貌するための第一歩になる。業績不振に悩む部品メーカーが多い中、世界中の大企業から取引要請が引きも切らない樹研工業の姿こそが、説得力を持ち、その成功の味を物語っている。(文責:高田晋治)


【松浦元男氏(まつうら・もとお)氏 プロフィール】

1935年、名古屋市生まれ。小学生で松江市に疎開、地元の高校を中退し、名古屋に出て仕事を転々とする。豊橋の高校に復学。アルバイト先の社長の援助で、愛知大学法経学部に入学。バンドマンをしながら、大学卒業。5年間のモーレツ社員を経て、1965年、樹研工業設立、代表取締役に就任。いまや極小精密部品ではトップメーカー。2002年には、世界最小となる100万分の1の歯車を開発し、業界の話題となった。

■株式会社 樹研工業  http://www.juken.com/

(仕事探求サイト イノヴェーティブONE より転機)
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://yuumiya.blog40.fc2.com/tb.php/157-0952bdce
    この記事へのトラックバック


    最近の記事


    Los Angeles SEO - TwinTurtles SEO company offers innovative marketing solutions that are tailor-made to fit your company's needs. San Francisco SEO - By working on popularity and optimization, this SEO company will improve your website’s accessibility thereby increasing its business-generating potential. Seattle SEO - Premium SEO Company offers SEO Services that meets your Internet Marketing needs and assures increased visibility of your website through good Website Optimization. Internet Marketing Colorado - Professional Colorado Internet Marketing services in Colorado serving all small businesses. Proven Denver SEO expert search services.
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。